遺産の使い込み
遺産を親族等により勝手に使い込まれたことを原因として、親族内で紛争が起こるケースは少なくありません。遺産の使い込みをした人に対して返還請求をすることができますが、早めに対処しなければ全て使い込まれてしまう可能性もあります。以下では、遺産の使い込みに対する請求等について、詳しく説明していきます。
■遺産を使い込まれた場合の対応
まず、親族が遺産を使い込んでいるかも?という疑いがある場合には、本人に確認し、使い込みを認めた場合には、使い込みの額や日付、いくら返還するか等を話し合い、支払い可能な範囲で合意をしましょう。その際、合意書、分割払いであれば公正証書を作成しましょう。
次に、合意や話し合いをすることができなかった場合、裁判上で法的請求をしていくことになります。遺産の使い込みに対しては、「不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」として請求していきます。どちらの請求もすることができますが、上記請求には時効があるため、注意が必要です。
●不当利得返還請求
不当利得返還請求は、法律上の原因なく利益を得た者に対し、それによって損害を受けた者がする請求です(民法703条)。不当利得返還請求の時効は、「権利行使できると知ったときから5年」または「権利の発生時から10年間」であり、使い込みに気付いたら迅速に対応する必要があります。
●不法行為に基づく損害賠償請求
不法行為に基づく損害賠償請求とは、不法行為によって損害を受けた者が、加害者に対して行う請求です(民法709条)。上記請求の時効は、「損害及び加害者を知ってから3年間」であり、一般的には、使い込み発覚時から3年といえます。
これらの請求をする場合は、使い込みがあったことを立証する必要があり、この立証には時間がかかります。
よって、どちらの請求も行うことができますが、時効の長い不当利得返還請求がされることが多いです。
■遺産の使い込みを防ぐためには
こういった遺産の使い込みを防ぐためには、以下の方法を採ることが考えられます。
●任意後見制度
任意後見制度とは、後見人に被後見人の財産等の管理をしてもらう制度です。任意後見契約を親が元気なうちに結ぶことで、親が認知症等になって財産の管理ができなくなった場合であっても、任意後見人が財産管理をするため、同居している相続人によって財産が使い込まれてしまうことを防ぐことができます。
●家族信託
家族信託とは、自分の老後や介護等に備え、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる制度です。これも任意後見制度と同様に、親が元気なうちに利用することで、認知症等になった後であっても、財産の受託者が財産管理を行うため、使い込みを防ぐことができます。
●成年後見制度
もし、任意後見契約や信託契約をする前に親が認知症等になってしまった場合は、裁判所に申し立てをして、後見人をつけてもらいましょう。
そうすることで、後見人が財産の管理を行うこととなり、遺産の使い込みを防ぐことができます。
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